前回「ユーノス・ロードスターに決める(1995年)」から続く
クルマへの関心を強めてから最初に手に入れる(買い替える)一台は中古のユーノスロードスターに決まった。そこで、自分のモノとなる個体を探す行動が始まった。当時は、まだ紙媒体による情報収集の時代であり、自動車雑誌、中古車情報誌、新聞広告(チラシ)などをくまなくチェックする日々が続いた。週末には近隣の中古車店のチラシがいくつも入る。チラシのために新聞を購読していたといっても過言ではない。
幸いユーノスロードスターの中古車としてのタマ数は豊富であり、むしろ多くの候補からどれを選ぶかという買い手市場であった。ただ、よくよくチェックしていくと、現実的な購入対象としては限られてくる要素もいくつかあった。まずAT車は除外。そしてカスタマイズや改造が気になる個体も除外。前オーナーによって手が加えられている個体も少なくなかったのだ。個人的にはリアスポイラー未装着の個体を選びたいというこだわりもあった。
気になる存在として、英国的な雰囲気を喚起させる深緑(ネオグリーン)のボディとタンの革内装で彩られたVスペシャル(外部サイト)があったが、中古市場では私の希望よりも高めのプライスタグを付けられた個体が多かった。さて、どうしたものかと思案の日々。
友人の一人は、クルマ趣味はないが一通りのクルマ知識を持っているという、当時であれば決して珍しくはない感覚の持ち主だった。「ユーノスロードスターを買おうと思う」と言うと、「いいんじゃない」と返ってきた。そして、あるマツダのディーラーなら顔が利くという。
そこからは流れるように事が進んだ。訪れたディーラーに一台だけあった個体は、ロードスターがデビューした1989年(平成元年)式の最初期型。イジられた形跡はなくノーマルのまま。リアスポイラーも無い。試走はできなかったが、状態は悪くなさそう。走行距離は今では記憶に無いのだが確か4万〜5万km前後だったような気がする。色は銀(シルバーストーンメタリック)で、これは初期のロードスターではあまり人気が無かったと聞かされた。色については赤(クラシックレッド)や青(マリナーブルー)は退色が目立つ傾向があったのも事実で、それ以外だと白(クリスタルホワイト)になる。そもそも中古車なので色を選ぶ贅沢な行為は目の前のチャンスを逃すことにもなる。何よりシルバーストーンメタリックはイヤな色ではなかった。
これで乗り出し75万円(だったかな?)。以上即決!
納車日、紹介してくれた友人と再びディーラーを訪れる。内外装は清掃とワックス掛けで、一段とキレイになっており、中古車としての価値を底上げして見えるまでになっていた。しかもタイヤは新品が装着されていた。
キーを受け取り、いよいよ走り出す。いきなり幌を開けるには躊躇いもあり、今日のところは閉じたままで行くことにする。低い着座位置に若干戸惑い、教習所以来のMTに緊張するが、ひとまず発進成功。店舗から国道に出ると、その先の信号ではやや鋭角な右折ラインを取ることになる。交通量の多いその交差点では、対向車が途切れたら速やかに発進させる必要がある。エンストは許されないから、まだ慣れたとはいえないクラッチワークに少し不安を抱く。ありがちなことだが、少し強めにアクセルを踏み込みながらクラッチを繋いでしまう。ステアリングを切って右に旋回し始めるや、唐突にスッとテールが流れそうになる。「おーっ」と助手席の友人も声を発する。実際それはごくわずかな現象であり、交差点内で失態を演じることなく無事右折を完了できたのだが、いささか限界の低さを感じたものである。
そういえば、納車の際に整備の方から「一応新品のタイヤを付けてますけど、それほど良いタイヤではないので気を付けてください。気になるなら別のタイヤに換えてください。」なんて言われていたのを思い出した。何故わざわざそんなことを言うのだろう、と思っていたのだが、後にこのタイヤのせいとは断言できないにしろ、ある惨事が引き起こされることになるのだ。
自宅までの道のり、今までとは全く違うクルマの挙動に新しい世界を知り、自分とクルマとの付き合い方、自分の中でのクルマというものの位置付けがすっかり変わっていくのだった。用もなく、ただクルマを走らせる。そんなことを始めたのもこの日以来だった。
冒頭写真は、納車後最初に迎えた冬の時期に。
どなたの話であっても、「納車」という場面はわくわくしますねぇ。続き、待ってます。
人生でそう多くは味わえないですがね(人によりますが)。このロードスターの時は、格別なものがありました。単に道具としてではなく、自覚的に選んだ初めてのクルマでしたので。